この子は、ずっと私が守っていくって決めた。




『15歳‥‥夏の決意』






自分の親のことは全然覚えていない。
気付いたらもう此処に居た。

此処は通称「森の端」という歓楽街。
歓楽街っていっても、都会の綺麗なイメージとは正反対の
未だに、こんな場所があっていいのかって言うくらい特殊な場所だった。

此処には、暴力や売春そんなのは当たり前にあったし、
道を一歩挟んだそとの町の人からどんな風に言われているかも知っている。

そんな場所で私は育った。


私は、一ノ瀬玲子‥‥もうすぐ15歳になる。
物心付いたときにはもう此処に居て、私の母親もやはりこの森の端の人間だった…
ということだけは聞いたことがあった。
もちろん父親なんて誰だかわかるはずがない。

子供の頃からこんな場所で暮らしてきていたから、この街ではどうやって生きていくかは
判っていた。


初めてお客を取らされたのは初潮が始まってすぐだった。
見知らぬ、オヤジ・・・・。
今でもたまに悪夢に見てしまうくらい怖かった。
大きな体がまだ成長しきっていない私の体をもてあそんだ。

気持ち悪かった、ショックだった。体の痛みよりも、心の痛みのほおが大きかった。
でも、そんな甘い考えでは此処では生き残っていけない。

その後私は他の人よりちょっとだけ容姿が良かった分、幾分かマシな待遇だ
ということを知ったときには、
死んでしまったほうが楽ってことも考えた自分を恥じた。

そんなに私は弱くない・・・ここで私は生きていける………。



■■■


「玲ちゃんは可愛いね」

そういって、私の頭を優しく撫でてくれたのは、暁にもう何度目か通ってきてくれている人。
その人は、この界隈の人ではなく、よその町から来た人。
森の端の奴らとはちがってとっても優しくてスマートな態度だった。
スーツをピッシっときこんで、お酒に酔われることもなく、私との会話を楽しんでいるようだった。

そんな男の人だったから、まだ幼い私の心が恋をするのは早かった。
私はこれが恋だと自覚したとたんに彼に夢中になった。

いつかはここから去って行ってしまう人だと分かっていても、今だけでも
彼との恋愛に溺れるのも素敵なこと…なんて思ってしまう。

恋愛っていっても、その間にも何人の男と体を交え、日々を過ごす。
ただ彼と会うときだけは、私は14歳の少女に戻れた。

「いいのかい?」
「うん・・・・・あなたに、抱いてほしいの」

彼は、何度も店に来てくれながらも、私との関係を持とうとしなかったので、
私から誘ったくらいだ。
これも初めてのこと。

初めて恋をし、
初めて男の人とこうしたいと願い
…そして初めて、この行為が嬉しいことだと知った。


けれど・・・・・

けれど・・・・

それはやっぱり甘い幻想でしかなかった。


■■■■

「玲ちゃん」

暁の私より年上のお姉さんが生理用品をもちながら私に話しかけてきた。

「ねぇ、コレ量減ってないみたいだけど、玲ちゃんちゃんと生理きてる?」

女性が沢山いるこの店では、だれがどういう周期なのか暗黙の了解で判っている。
そのときには他のメンバーで助け合ったりして。

だから、自分では気付かなかった体の変化に気付いたのは思ったより早かった。

「う・・・ん・・・・えっと・・・」
「玲ちゃん…まさか・・・」
「かも・・・・・・」

青ざめていくお姉さんに対し、苦笑いで笑って応えるしかなかった。

そうして、私は、森の端で唯一の医者であるオヤジのところに連れて行かれた。
もちろん、こいつとも私は関係を持っている。

昼間からお酒を飲んで、清潔とはいえない診察室の一室で、私は奴に体を見られた。
医者っていっても、専門なんてもってない、ヤブ医者だ。

普通の病院では見てもらえない怪我や、保険証のない人たちが仕方なくくる病院。

そんなオヤジに下された決断はやはり、妊娠だった。


■■■■

その日の夜は暁は、騒然とした。
それは私のおなかに芽生えた命をどうするか…ということで
暁のメンバーが集っていた。

店を仕切るババアは、堕胎を進めている。
他のみんなも、早いうちにおろしてしまうことが言いといっているようだった。

でも、でも私は、このおなかに芽生えた命を守りたかった。

もしかしたら、彼の子供ではないか…という期待があったから………。


猛反対する周囲に逆らい一人で逆らった。

いままでこの街で生きていくためには、なるべく逆らわずに生きてきた。
だが、これだけはどうしても譲れなかった。

その日だけでは結局結論は出なかったが、不意に油断していると、
病院に連れて行かれたり、ワザとだとわかるようにおなかを蹴られたりした。


どんなことにも耐えなければいけない・・・この命を守るため・・・・・。


生ませてくれなければ、此処で自殺してやると叫んで割れたビンをのどに押し付けたこともあった。

そうして、もう堕胎できないところまでどうにか逃げ回るだけしかなかった。


■■■■■


季節がすぎるのは早い。
どうにか、おろすことを免れた私のおなかは少しずつ目立ってきていた。

だから、今までは、暁の中だけで守られていたことも
森の端全体に伝わっていた。

「玲ちゃん、妊娠してるんだって?」

そういって私のおなかを優しく彼はさすった。

「うん・・・ここに、あたらしい命があるんだよ」

私は、アナタのコドモならどんなにイイカ…と言葉にしたかったが言えなかった。

それは私の希望だけだったから。

「そうか・・・新しい命か・・・」

そういうと彼は、その日は私を抱くことはせず、そっとおなかを優しくさすってくれた。




涙が出てきた。

とても嬉しいと思えた涙・・・・。

こんなに暖かいものだとは知らなかった。



■■■■■

「あんたが、玲ちゃんの子のオヤジって噂があるんだけど」

そう彼が言われたのは、丁度私が前の客の相手を終え裏口から戻ってきたところだった。
その言葉を聴いて、サッと身を隠したのはなんでだろう。
でも彼がどういうか聞いてみたかったのかもしれない。

「どうなんだい?コドモのオヤジの可能性あるのかい?」

暁のババアに言われた彼は、フッと苦笑いをすると、私の前では見せたことのない
表情をして言った。

「確かに、私は彼女と関係があるかも知しれないが、こんな街のあんな阿婆擦れ、
誰とでも簡単に関係を持ってる女が身ごもったところで、結局、誰が父親なんて
判るわけがないじゃないか。
誰だって可能性があったというだけだ。
たとえ私の子供だったとしても、それはたまたま運が悪かったというだけで、
私に親の責任を持てといわれたところで、そんな事は関係ない」

身を隠すためにしゃがみこんだ体がガクガクと震えた。




期待していた訳ではない。
自分の子供だと認めて欲しかったわけじゃない。
私の前で見せた態度は、好意を持たせるための顔で、本心じゃないってわかっても
仕方がない。

でも・・・でも・・・淡い恋心と淡い期待はその言葉に粉々に砕かれた・・・・。



ガクガクと振るえ丸くなり意識が朦朧としていく。

遠くで、私を叫んでいる声が聞こえた・・・・・・。


■■■■■


気付いたときには、目は真っ赤になり、顔いっぱい浮腫んでいた。

「玲ちゃん、大丈夫?」

気が付いた私に、りんごジュースなら飲めるだろうと、お姉さんが
そっと持ってきてくれた。

「うん・・・・・大丈夫・・・。」

きっと、これだけ浮腫んでるのだから、きっと沢山泣いたに違いないのに
涙が止まらなかった。

「この子のこと、きちんと育てられる?」

膨らんだおなかにそっと手を置かれた。

少し震えた自分の手で、おなかをさする。
あふれ出る、涙をぬぐうことなく私は話始めた。

「私ね・・・初恋だった・・・」
「うん・・・」
「この子が誰の子か判らなくても、彼の子と思っていたかった」
「うん・・・」
「責任がとってもらいたかったわけじゃなくて」
「うん・・・」
「私一人で、育てていこうと思ってた」
「うん・・・」
「私、ちゃんと・・・産めるかな。」
「・・・・・」
「ちゃんと・・育てられるかな・・・」

それまで、優しく聞いていてくれたお姉さんも口をつぐんだ。
そして彼女の方をみると彼女も一緒に涙をこぼしていてくれた・・・。

その姿を見て、溢れる涙とともに、大声を上げて泣き叫んだ。

初めてのことだった。

私はこんなに泣けるんだ・・・・。


と、そのとき、震えた手の平に小さな振動が伝わった。

「あ・・・・」
「どうしたの?」
「今ね・・・」

その振動を確かめるように泣くのをやめた。

「今ね・・・動いた・・・・」

私の中の命は確実に成長していた。

この小さな振動が確かに命の成長を私に伝えている。
そのとき、まだ子供だった私は、母親になったのかも知れない。

子供の恋愛は、もう諦めなくちゃいけない。
子供の理想は捨てなくちゃいけない。

そのために沢山泣いた。

だから・・・・

だから・・・・・・。









今度は、私と、この子を守るためにこれからもっともっと強くならなくちゃいけない。









この街は、私に決して優しくない、甘くない。
それは、きっとこの子にも対して同じだろう。

でも私は、この子を守っていく。
たとえ、この子が誰の子だとしても、この子は『私の子供』であることは
間違いないのだから。

こらから起こる、もっともっと大きい障害に立ち向かうためにも・・
そしてこの子を守っていくためにも……私は強くなるんだ………。





■■■■■



季節がすぎるのは早くて
新しい命がこの手の中に包まれるのはあっという間だった。

大変な出産だったけど・・・


この手にいまいるこの命を、こうして抱きしめることが出来ることは
私にとってなにより幸せなことだ。


おお泣きする子供に慌てる暁のお姉さんたち、

その中で、この子は泣き止み、一瞬きょとんとしながら、
次の瞬間満面の笑みを私にくれた。







生まれてきてくれて・・・ありがとう・・・・・。











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あとがき。

玲ちゃんのお話ー。
もっと、深く書きたかったんだけど、無理です。
でも、どうしても思いついて書きたかったのです。
文章関係は、長くなると、途中で飽きてしまう自分なので
どうしてもどうにか形にしたくて一気に書きました。

伝わりきらなかったらごめんなさい(--;)。
大目に見てください。



裏ーかー表かー悩みましたが、要素がないので表(^^;)。
表現的に問題があるようなら裏にしますが、
ここまで辿り着く人なら問題がないと信じます(笑)


つたない文章を読んでいただき有難うございました。

                  2008.04.07 たなも






玲ちゃんをイメージした創作です。
あくまで妄想です。(判ってるって)

未成年の方には適さない表現があるかもしれないので、
自己責任でお読み下さい。((*_ _)人)

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